第245話 いいモノを作っても売れないコーヒー豆屋さん
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いいモノを作っても売れないという例は、今も昔も数多くあります。さらに、良すぎるものを作ったために、売れずに倒産してしまったという例もあります。
古い例ですが、明治時代の美術品メーカー(職人集団)がそうです。幕末から明治にかけて、アメリカやヨーロッパで盛んに万国博覧会が開催されていました。もちろん今でも万博は開催されていますし、近々、大阪で開催されますので楽しみにしている方も多いでしょう。
その当時の美術品は、手の込んだ精緻な作品が数多くありました。そして万博出品作品は、工芸、彫刻、漆芸、陶磁器など様々な分野で大きな賞を受賞しました。それら多くは非常に高価であったため、日本国内では市場がなく、海外に市場を求めたものでした。
しかし世界の好みが変化すると、その環境に対応できず、良すぎるものを作りすぎていたことが仇になって倒産したり、廃業したりする会社が続出したのです。要するに、売れるものを作らなかったため販売不振に陥ったのです。
さて、当社でもその実例を目の当たりにしています。高度な技術と丁寧な仕事で、おいしいコーヒー豆を自家焙煎しているにもかかわらず、売れないコーヒー豆屋さんの例です。
この方は当社のお客さまではありませんが、度々コーヒー豆を買いに行くという関係で、この方の話を聞くことがあります。コーヒー豆を買うと、好きなコーヒーを一杯無料で試飲させてもらえるので、それを飲みながら話をするのです。
そこで愚痴が出ます。「売れない…」と。コーヒー豆を売るための小さなショールームまで持っているにもかかわらず、です。
なぜ売れないのか? 話をよく聞いてみると、売れない理由が分かってきます。理由は、いい豆を作るのに一生懸命で、営業していないからです。
実は単純な話です。売れないなら、売れるように営業すればいいだけのことです。しかし当人にとってみれば、いい豆を作っているのだから売れるはずだという固定観念があります。話を聞いてみると、それがどうしても抜けないことに原因があると分かってきます。
加えて、接客もおろそかになります。気に入らないお客様には買ってもらわなくてもいい、という雰囲気がありありと出ています。本人は、そんなつもりではないと思っているようですが、来店客は敏感に感じるのです。
厄介なのは、本人がそれに気が付いていないということです。気が付いていればいろいろ方法はあるのですが、かたくなに、いいモノを作れば売れるはずだという考えを持ち続けているのです。これは職人上がりの経営者が陥る罠です。
このコラムをお読みの経営者の皆さんは、この話をどのように受け止めますか?
「ウチはそんなことはない」
「きちんとマーケティングしているし、販売活動に力を入れている」
こんな風に、お答えになる方が多いのではないでしょうか。ところが、そういう方に限って自社都合で製品・サービスの開発をしています。そしていいモノを作っています。
もちろん、そのようなプロダクトアウト型の製品開発が悪いと言っているわけではありません。中小企業は基本的にプロダクトアウト型でなければなりません。しかし、そこには独りよがりの独自性があるということです。要するに、お客様の目線で考えていないということです。
人は基本的に自分を中心にものを考えます。それは自分自身を守るための本能です。したがって、知らず知らずのうちに独りよがりになっています。
セミナーで参加者の方々にこの話をすると、皆さん「ハッ⁉」とされます。「しまった!」という表情です。それくらい自分のことは分かっていないのです。
単にコーヒー豆を買いにくる顧客という立場ですので「コンサルタントです。コンサルティングを受けてみませんか?」などということは申しません。「もっとショールームを活用しましょう!」などということも申しません。
しかし「もったいないショールームをなくしたい」との想いでコンサルタントをやっている自身からすれば、このような方にこそコンサルティングを実施したいと考えています。そして品質に見合った価格でたくさん売って、儲けていただきたいと願っています。
お客様が欲しがるモノを作り、ショールームでそのメリットを説明する。いい方法ですよ。