第91話 ショールームイベントに集客できない本当の理由

 先週ご紹介した家庭菜園をやっている会社の社長ですが、実は、ショールームを回せない理由が他にもありました。当初、お話を伺っている段階では、社長があれやこれや部下の世話を焼き指示を出していくため、部下を指示待ち人間にしてしまったということでした。社長が手をかけすぎて、返って人が育たなかったということです。

 しかし、本当にそれだけだろうかという疑念を若干持っていました。それが何かということはその時点では分かりませんでしたが、コンサルティングをやっていくうちに明らかになるだろうということも感じていましたので、そのあたりを注意しながら進めていきました。

「細井先生、先日のショールームイベントは冷や汗ものでした。」

「次回のイベントは口を出さずに部下に任せてみようと思います」

 社長は反省を込めてこう言います。しかし何か違和感を感じます。本当に部下に任せてうまくいくだろうか。そんな思いを持っていました。ただ、その違和感の原因が何なのかということははっきりわかりません。ただ何となく感じるのです。

「うちの社員はチームワークもあるしよく働きますよ」

「売上だって業界の中ではそこそこですし、ちゃんと利益もあがっていますからね」

社長のこの言葉は社員を励ますときに使われます。売り上げが落ち込んだ時などは「そんなに儲けてどうするの」といった言葉も聞かれます。「多少売り上げが落ちても心配いらないよ」「やる気になるから俺は不景気の時のほうが好きだ」と自分を励ます意味の言葉でもあります。

 当初、この言葉を何気なく聞いていましたが、どうも何か引っかかります。自分を励ます言葉として話してはいますが、部下たちには違った意味で伝わっているのではないかと考えるようになりました。

 コンサルティングをしていても引っ掛かります。このまま進めても結果は出ないのではないかと考え、思い切って社長に、役員と個別で面談したい旨を申し出ました。最初はいぶかしげな表情をしていた社長ですが、丁寧に説明したおかげで了承してくれました。

 そしてさっそく役員の1人と面談することになりました。その役員は営業担当ではないものの、先回のイベントに深くかかわっていた人物です。本音を聞き出したいのですが、単刀直入に切り出しても本当のことは話してくれません。時間を掛けて少しづつ聞き出しました。幸いこの役員の方は、当社を信用してくれていましたので、ポロリポロリと本音を吐き出します。そしてついに核心を捉えました。

「先生、うちの会社はショールームがあるけどほとんど役に立っていませんよ」

「ショールームがなくても売り上げはあがっています」

「無理してイベントやって、そんなに儲けてどうするんですか」

 これが、ショールームが使えない原因だとようやくわかったのです。そして、どうやらこの役員の方が思っていることは他の役員の方も、その部下の方も同じように思っているということです。決して口に出しては言いませんが。

 たぶん、社内で飲み会があればこういった話題になっていたでしょう。部下を連れて居酒屋で呑めば酒の肴になっていたでしょう。社長はそんなこと一切気が付いていません。この役員の方の立場を考えて、社長には当り障りのない報告をしておきました。そして、しばらく時間をおいてコンサルティングの方向性の変更を申し出ました。

 社長も当社を信頼してくれていたため「先生がそう言うなら」ということで快諾していただき、コンサルティングはやり直しということになりました。いくら社長が奮闘しようが、部下を信頼して任せようが、部下がショールームの必要性を感じていなければ「笛吹けど踊らず」です。社長の普段の発言が、部下に対して励ましているつもりでも、部下は社長の真意を捉えていませんでした。

 ショールームを活用すれば売上・利益ともに大きく伸ばすことは可能であっても、現状に満足してしまうことが度々あります。そして最も厄介なのが、社員のみならず役員までもが「ショールームがなくても売り上げはあがっている」と思っていることです。

 しかし、言い方を変えれば「ショールームを活用できればもっと売り上げはあがる」「今持っているポテンシャルを十分活かしきれていない」ということになります。実は、こういう会社は多いです。実にもったいないと言わざるを得ません。

 そんな会社の社長には「あなたは会社が持っているポテンシャルを活かしきれていますか?」と聞きたいです。

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