第74話 大手コンサルファームが中小企業に本当のコンサルティングをできない理由

 先日(緊急事態宣言の前です)、大手コンサルファームのセミナーがあるというので聴講に出かけました。タイトルは「運送業における採用と人材育成」というもの。当社のコンサルティングとはあまり関連性はないのですが、実は、このセミナーを非常に楽しみにしていました。何がそんなに楽しみだったかというと、セミナーの内容ではなく、大手コンサルファームがどんなセミナーを開催するかということに非常に興味があったのです。

 有名大手コンサルファームのセミナーということもあって、このコロナの中でも割と会場には人が入っていました(もちろん、オンラインでも配信されていました)。30ページほどの手元資料が配布され、それと同じ内容で前方のスクリーンにプロジェクターで投影し、それに沿って話を進めるといったごく一般的なセミナー形式で行われました。

 講師は、中間管理職の講師慣れした方で、データ満載の資料に加え、話し方も非常に論理的でわかりやすく納得感のある内容でした。非の打ち所がないというか「ごもっとも」と言わざるを得ません。途中休憩をはさんで約2時間のセミナーでしたが内容が濃く、2時間では短すぎる、最低3時間は欲しいと思わせるくらいで、途中端折って話す場面もありました。しかし、重要な部分はきっちり時間を取っていましたしので、2時間でも十分伝わってきました。

 しかし「何か変だな・・・」

 さて、講義が終わり、質疑応答の時間となりました。あまりにも完璧な講義だったため、質疑と言われても…といった雰囲気で会場はシーンとしています。しかし、やや間があって、一人の受講者が挙手をして質問を始めました。

「○○さん(講師の方の名前)は『自社に採用基準を設けて、その基準に満たない人材は採用しないことが大切だ』『自社に合わない人材を採用してもいずれ離職することになり、初期投資が無駄になるばかりでなく教育現場の疲弊を招く』とおっしゃいましたが、我々中小運送業者が採用面接時に選別なんかしていたら、人なんて採れないですよ」

 会場から拍手。

 「やっぱり・・・」

 実は、ここが大手コンサルファームの弱点です。この講師が用意したデータ満載の資料、論理的な話し方、すべてが完璧なセミナーでした。しかし、現実にはそううまくいくはずもありません。講義中に成功事例が出てはいましたが、成功したのはごく一部で、その背景には失敗した事例が数多く隠されているのは紛れもない事実でしょう。

 大企業であるコンサルファームのコンサルタントが、いかに立派なロジックでコンサルティングしたとしても、しょせんサラリーマンの机上の空論。その現場で働いたことのない人がいくらロジックで話そうとも、現場を知り尽くした人たちに受け入れられるはずもありません。

 方法論を学び、それを自社に当てはめ、自社で改善していける企業であれば理論をコンサルタントから教えてもらうのは有効ですが、世の中にそんな中小零細企業が存在するわけがありません。経営資源を豊富に持ち、経営システムが整備された大企業とは違うのです。

 それではこの場合どうしたらよいでしょう?残念ながら当社にはわかりません。というより、はっきりした答えを持っていません。なぜなら専門ではないからです。この分野の経験が少ないからです。

 もし、このテーマのコンサルティングを依頼されてもお断りします。お客様に迷惑がかかるからです。しかし、ショールーム営業と中小企業向けコーポレートガバナンス導入コンサルティングであれば、他者に負けることはありません。自信をもってお受けいたします。34年間の実務経験があるからです。

 ところで、こう質問された講師の方、質問に答えることはしたのですが、ずいぶん声が小さくなってトーンダウンしてしまいました。やっぱり現場にはかないません。

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