第60話 これぞプロの接客

 当社のお客様が、東京銀座の2つの或る専門店に行った時の出来事を話してくれました。

「いや~先生、やっぱりプロだね。一流の専門店は接客が違う。一見の客でも絶対飽きさせないもんね」

 どういう事かと言うと・・・。

第1幕

 この方、時計に興味があり、ふらっと時計専門店に入りました。しばらくショーケースの中の時計を眺めていると、そのうち品のよさそうな女性店員が寄ってきて、商品について説明をしだしました。最初はちょっとうっとしいかなという感じを持ったのですが、店員の説明や接客態度に接するに従い、時計よりもこの店員の接客技術に興味を覚えたというのです。

 客に接する態度や言葉の柔らかさ、説明の的確さなどにより客を引き込む力、離さない力を感じました。もちろん商品は一流なのですが、この接客が商品に上乗せされてさらに魅力のあるものに仕立て上げられています。一流の時計ですので当然価格も一流となるわけで、庶民がホイホイと買えるような価格ではありません。清水の舞台から飛び降りる覚悟や、何か重要な記念日にしか買えない代物です。しかし、この店でこの接客でこの時計を買った時の客の満足度はどのようなものでしょう。きっと大満足、一生大切にできるような思い出に残る買い物になること間違いありません。

 実はこの方、古い時計(1950年代~70年代)にも興味があり、その辺のことをこの店員に聞いてみると、どうもはっきりとした答えが返ってきませんでした。いかに優秀な店員でも、数多くある商品の1つ1つをすべて完全に知り尽くしているわけではありません。ましてや5~60年前の古い非売品の時計のことまで知識として持っていることはなかなかないでしょう。しかし、そんな細かな知識よりもこの時計がいかに魅力的か、希少性が高いか、価値が高いか、わかりやすく丁寧に、しかもくどくならないように説明し売り場を案内してくれます。最後には立派なチラシと店員の名刺をもらいました。名刺の肩書にはマネージャーと書かれていました。この方、客である自分のほうが恐縮してしまったそうです。

第2幕

 続いてこの方、美術品にも興味があって、以前から気になっていた約150年続く磁器メーカーの美術磁器のショールーム兼販売店に足を延ばしました。高級美術品のショールームですからなんとなく入りにくさを感じていたのですが、いざ入って見るととても気さくで雰囲気のいいショールームでした。しばらく展示品を見ていると、やはり店員が寄ってきて展示品の説明をしだしました。1幕の時計専門店と同じように、非常に丁寧で分かりやすく、自社の歴史を踏まえて現在の商品の良さを説明したのです。

 ここ20年~30年で世の中の陶磁器メーカーがバタバタと倒れていった中、このメーカーは古くてもよいものは残しつつ、新しい感覚で美術品や日用品を作り現在まで生き残っています。また、磁器製造の技術を転用し産業分野にも進出しています。その商品の良さをショールームという場所を使って店員がきちんと魅力を発信できるということが強みになっています。

 第1幕の時計小売り店、第2幕の美術品ショールーム。どちらも製品の良さに加え、小売店舗やショールームという場所で、店員が製品の魅力を存分に発信し伝えるという役割を果たしています。ただ単にスペックや機能を説明しているのではありません。客の態度を感じながら言葉を選び、タイミングを計り提案する。こういった接客ができるからこそ製品が商品に変換できているのです。

 ただショーケースに並んでいるだけ、そこに値札が付いていて客は勝手に見ているだけ。これは単なる製品であって商品にはなっていません。製品を商品に変換するには見せる場所と魅力を発信し伝える「人」が必要です。

 今回はこの「人」に焦点を当ててコラムを書きました。ショールームがあっても「人」がいなければ商品化できません。第1幕の時計小売り店や第2幕の美術品ショールームのような一流の会社・店舗は、製品を商品化したうえで、そのもう1つ上のランクまで昇華させています。だから儲かるのです。

 ショールームを活かし、魅力を発信するには「人」が必要です。

 あなたの会社には、製品の魅力を発信し伝えられる「人」はいますか?

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