第25話 プロの技と心 2020/3/17

 「細井さん、靴にサインを入れなくても、見る人が見れば私が作った靴だというのが分かるんですよ。だから私はサインを入れません」そう言ったのは、この道60年の筋金入りの靴職人です。現在は高齢のため新たに靴を作るのはやめてしまいましたが、以前はフルオーダーメイドの革靴を、顧客の注文に応じて数多く作っていました。小さな店舗兼作業場で1人でコツコツやっている店なので一度に大量には作れませんが、ファンが多くひっきりなしに新規オーダーが入っていました。

 その靴の作り方ですが、これがかなり変わっています。普通、フルオーダーの靴ですと新たに木型を専用に作って、仮縫い、試し履き、本縫い、完成という工程を踏むのですが、この方の作り方はそういった工程は一切なし。靴下のままスケッチブックに足を乗せ輪郭を写し、足の甲の周りをメジャーで測り、後は両手で足を触ってハイOK。既存の木型を修正し、試し履きなしで1~2か月後には足にぴったりの靴が出来上がるというものです。「失敗したことはないんですか?」と聞いたことがありますが、「ない!」そうです。技術的なことはわかりませんが、この方の靴を履くようになって足の疲れが少なくなったのは事実です。

 この方が作る靴は見た目も素材もデザインも一流なのですが、特筆すべきは、なんといっても履き心地でしょう。長く履けば履くほど愛着がわき、10年、20年と履き続けられる靴です。それが多くの人の心を引き付けるのだと思います。しかもそれはユーザーだけでなく、本職の靴職人も引き付けるのですから、これぞ本物のプロだということです。

 ところで、コンサルタントの世界で本物のプロに出会うのは稀ですが、1人だけ「こりゃあプロだ!」という人に出会ったことがあります。コンサルティングの技術とかノウハウはもちろん一流なのですが、何よりその情熱や人を引き付ける魅力があるのです。「あー、この人に頼めば何とかなる」「この人なら間違いない」と思わせてくれるのです。だからコンサルティングを依頼するクライアントがひっきりなしに訪れるのだと思います。

 靴を作るだけなら努力して技術を身につければできるのですが、前出の靴職人はそういった技術を持っているだけではなく、愛着の湧く靴、安心感のある靴、頼りになる靴を作っていたのです。これは単なる技術だけの問題ではありません。

 コンサルティングも同様で、コンサルタントが持っているコンテンツをクライアントに導入できればコンサルティングは一応成立しますが、クライアント企業がそれによって成長し、長く繁栄していかなければコンサルティングが役に立ったとは言えません。

 コンサルティング技術を磨くことだけではなく、クライアントから信頼されるコンサルタントにならなければなりません。それによってクライアント企業が発展し、成功を収められることが一流の証なのではないでしょうか。私もこのプロのコンサルタントのようになれるよう努力します。

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