第359話 職人上がりの経営者が成功しない理由

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先日、今年上半期において、飲食業界の倒産が過去最多を記録した、というニュースがネット配信されました。倒産件数のうち約36%が個人経営の飲食店です。
倒産の原因は、原材料高、人件費高、光熱費高などによる採算悪化です。何もかもが値上がりしてコスト増になっています。
短絡的に考えれば、コストが上がっているのだから、その分を販売価格に転嫁すればいいのではないかと考えがちですが、そうはいかないところに難しさがあります。
例えば、スーパーマーケットの食料品売り場で、3パック97円で「納豆」を売っていたとしましょう。それが121円になっただけで売れ行きが断然悪くなります。スーパーは打開策として1パック余分につけて、4パック121円で売ったとします。ところが、それをしても売れ行きは元に戻りません。
スーパーマーケット同様、居酒屋のような庶民のお店の客は価格の変化に敏感です。メインの料理や飲み物が10%値上がりしただけで、売り上げに悪影響が出ると言います。
居酒屋だって原材料その他が値上がりしているのですから、その分を価格転嫁させたいでしょうが、それで売り上げが落ちたら元も子もありません。そしてついに我慢の限界が来て「倒産」ということになります。
ただ居酒屋の場合、スーパーと違って価格だけではない要素があります。スーパーは、ただ単に並んでいる商品を買うだけですから、同じ商品なら安い方がいいに決まっています(もちろん、駐車場の広さとかレジの待ち時間とかの要素はありますが)。
居酒屋の場合は、その店の雰囲気、接客、料理の出し方、居心地なども選ばれる理由になります。ということは、料理や飲み物の値段を上げても、それに見合った価値があれば客は減らないということになります。
また、売れ筋のメインの料理は価格を据え置いて、あまり売れ行きがよくない料理の価格を上げることで価格転嫁することもできます。客は、あまり売れていない料理の価格をいちいち覚えていないからです。
冷静に考えれば、このような価格戦術は当たり前とも言えますが、実際にはなかなか難しいようです。なぜならば、個人経営の居酒屋は、経営者が職人上がりの方が多いからです。
職人は、仕事の技術力が高ければ生きていけますが、経営者は経営能力が高い人が成功を収めます。職人上がりの経営者でも、経営者になる過程で経営を学べば、ある程度の成功を得られるかもしれません。しかし、そのような機会がないのです。自分で作らないのです。一生懸命に料理を作ることはしますが…。
これは、中小企業が大手企業の真似をしても、うまくいかないことを示唆しています。大手居酒屋チェーン店のような価格設定をしても、それ(安い)だけでは客は来てくれません。大手チェーンにはない独自性、専門性、客観性が必要なのです。
これは何も、居酒屋に限ったことではありません。例えば、建設業界でも同様なことが起きます。
リフォーム会社で修業した職人が「使われるのは嫌だ。自分が親方でやってみたい」と言って独立します。
その心意気は立派ですし、技術力も持っていますので成功すると思いがちですが、そうならないことが往々にしてあります。技術力があっても、それを販売する能力を持っていないからです。
販売できなければ仕事はないわけですので、いずれ経営は行き詰ります。そうすると仕方なく、元勤めていた会社の下請けとして安い仕事を請け負うのです。
飲食業界でも建設業界でも、どの業界でも同様な職人経営者がいます。この様な方がうまくいかないのは、経営とか販売とかコスト管理とかを学ばずに経営者になってしまうことに原因があります。
職人経営者の方は販売が苦手ですが、コスト管理はもっと苦手です。「原価計算? なにそれ」と言う方もいます。原価計算などと難しく考えなくても、この商品の原材料費はいくらとか、人件費がこれくらいで販売価格はこれくらいだから、どれくらい売ればいいかとか、そんな簡単な計算でもいいのでやってみるべきです。
逆に言えば、それをやらずに、感覚だけでビジネスを行うからうまくいかないのです。
読者の皆さんにとっては「そんなこともできないの?」と思うかもしれませんが、職人上がりの個人事業主のような方は、そういう経営者が多いのです。だから大きくなれないのです。だから成功しないのです。
コラムを読んでドキッとした方は、今すぐ経営を学んでください。販売やコスト管理を学んでください。そして実地訓練として、見込客開拓から契約までの導線づくりを学んでください。



