第151話 人はまず自分の身の安全を考える 

 人は自分が一番大切です。当然です。自分が一番正しいと思って生きています。したがって他人と意見が違う場合は、他人を自分に合わせようとするか、合わせられなければ無視します。

 プライベートならばそれでいいでしょうが、会社で仕事をする場合はそうはいきません。他人の意見を聞いて尊重し、会社をよい方向へ導かねばなりません。ある時には自分を押し殺して会社全体を調整し、変化させていく必要も出てくるかもしれません。部分最適ではなく、全体最適を考えるわけです。

 自分が経営側にいればそのような我慢もできるでしょうが、、一般社員で現場スタッフという立場であればどうでしょう。自己犠牲の精神か愛社精神か、そのようなものはあるでしょうか。

 ある会社のコンサルティングを行った時のことです。

 普段は、経営者と現場の責任者だけでコンサルティングを行っていますが、ショールーム営業というコンテンツの特性上、この時は現場のスタッフの方にオブザーバーとして参加していただきました。ショールーム現場の意見を聞きながら、具体的な戦略の立案をするためです。

「売り上げは伸びていませんし、近くに大手のライバル会社が出店してきていますので、このまま放っておいたらじり貧です」
「早々に手を打って会社を変えていかないといけません」
「それで現場の声を聴こうと、あなたにコンサルティングに参加していただきました」

 社長はこのように説明して意見を聴こうとしたのですが、スタッフの歯切れがよくありません。現場の声を率直に聞きたいのですが、モジモジしてなかなか話してくれません。

 困ったなと思っていたところに、
「先生、実は、現場のスタッフは会社が変わっていくのが怖いんですよ」
「会社が変わって、自分がついていけるか、ついていけなければ居られなくなるんじゃないかと心配なんです」
 という現場責任者の発言。

 考えてみればよくある話で、コンサルティングの抵抗勢力は会社内にいたという事実。

 このような抵抗勢力は、何も現場スタッフだけとは限りません。権力争いをしている役員の中にもいます。「あいつが賛成なら俺は反対だ」などという、訳の分からないような理由でコンサルティングが中断してしまうこともあります。こうなると、ショールーム営業コンサルタントの出番ではなくなってしまいます。

「先生、申し訳ない。ちょっと社内をまとめますので時間をください」「それから再スタートしましょう」ということになりました。

 この会社の社長が立派なのは、社員の不安を徹底的に取り除くために、ありとあらゆる機会を使って会社変革の必要性を説いたところにあります。そして社員が変わっていくためのツールと時間を与えたことです。

 誰しも自分が一番大切です。今すぐに会社がなくなるのであれば別ですが、「自分が会社にいる間は大丈夫だろう」などという期待感はあるでしょう。したがって「そんなにすぐに変わらなくてもいいでしょ」というのが本音です。

 変化に慣れていない現場スタッフにしてみれば、「仕事のやり方や考え方が変わって、自分が犠牲になるのは嫌だ」と思うのは当然のことです。

 しかし変化しなければ、いつかは会社ごとなくなってしまうかもしれません。会社が健全なうちに手を打っておく必要があります。変化するためのロードマップを作り、社員にはツールと時間を与え、将来に備えようというわけです。

 コンサルティングが成功しない原因は、コンサルタントの力不足という面があるものの、実は、このような社内の抵抗勢力によって邪魔をされるケースがあります。社員が多ければ多いほど、会社は一枚岩にはなれないのです。

 そういう意味では、会社全体が常に危機感を持っているかどうかが問われます。経営者の手腕といってもいいでしょう。経営者に危機感がなければ、社員にあるわけがありません。危機感は会社変革の良薬です。

 あなたの会社は危機感を持って事業をしていますか?

 

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