第149話 特殊製品・技術を持つD社の売り上げが伸び悩んでいる理由
皆さんは普段、難しいことを考えてお仕事をされていますので、むずかしいことは案外すんなり実行できます。当然、専門的な仕事をしているわけですので、一般の人から見れば難しいことを軽々とやっているように見えます。
普段の仕事が専門的であればあるほど仕事の難易度は高くなるでしょうし、その専門分野でのプライドも高くなります。
仕事をしながら専門学校へ行って、資格を取得した方もいると思います。または学生時代に難関試験を突破して、その資格を活かせる就職先を選んで入社した方もいるでしょう。
それはそれで大変立派なことですが、そういった専門分野で働く人たちは特に、商売の基本を忘れがちです。それは、商売はお客様があってのことであり、自分だけで商売が完成しているわけではないということです。
「何をいまさらそんなことをくどくど言っているの?」と言われそうですが、この商売の基本を忘れているために、会社を成長軌道に乗せられずに悩んでいる経営者の方がいます。
関西地方にあるD社は、特殊な製品とそれを施工する技術を持っていて、中小のみならず大手企業から個人まで幅広く顧客を抱えています。社員20人弱の小さな会社ですが、他社にはない技術と社長の営業力でこれまで大手とも取引し、売り上げを伸ばしてきました。
その特殊技術を使って施工したモデルをショールームに展示してあり、技術力の高さを誇示しています。社長はその技術力をもっと幅広くアピールして、もっと売り上げを増やしたいと願っています。
社長は先頭に立って、いろいろ営業をかけているのですが、D社の売り上げは一向に伸びません。社員にハッパを掛けていますが、思うように業績が上がらず社長は悩んでいます。
「先生、うちの技術は特殊でライバルは少ないから、もっと売り上げが上がってもいいと思うんです」
「ちょっと気になるのは、引き合いは結構あるんですが、契約できないことが多いんです」
「営業のスキルが足らないなら、講師を呼んで社員研修をもっと強化しなきゃいけないでしょうか?」
特殊な技術を持った会社の営業ですから、特別な製品・施工知識を持っています。営業マンの人たちもよく勉強して、お客様の要望に答えられるよう研鑽を積んでいます。ここのところは確かに立派です。自分の仕事に邁進しています。
ところが特殊な製品・施工知識は持っていても、本来、ショールーム営業として身に着けているべき基本的なことができていません。お客様に対する態度も全くなっていません。
例えば、製品や施工の説明はできますが、そこには「驚き」も「感動」もありません。「笑顔で挨拶、丁寧な対応」なんてことは当たり前で簡単なことですが、D社の社員はそれができません。挨拶すらできない人がいます。
なぜか? 社長に考えられる理由を尋ねてみました。
「ん~、普段難しい技術開発をしていて、それに対応しようとして難しいことを考えているので、あまりそういったことは考えていませんでした」とのこと。
社員20人弱の会社ですので、社長が現場で陣頭指揮を執ることもあるでしょう。しかし、社長が現場に専念していたら経営ができなくなってしまいます。
経営者である社長が経営するから、会社は売り上げが伸びて成長するのです。もちろん技術開発は必要で重要です。かといって驚きも感動もない製品・施工説明で、しかも社員が挨拶しないのでは、それが特殊であったとしてもD社は製品と施工のみを販売していることになります。
これまでは社長のリーダーシップと特殊な技術で業績を伸ばしてきましたが、少ないとはいえライバル会社もいるわけですので、別な要素も加えて受注を獲得しなければなりません。
そうであれば社長が言う「社員教育」は全く的外れです。「そんな簡単なこともできないの?」というレベルを改善する方が先決です。要するに営業スキルではなく、社員全員の意識レベルの問題です。
これまでの経験上、特殊技術を持っている会社ほど「笑顔で挨拶」といった簡単なことができていません。それは直接的に会社の運命を左右するほどではありませんので気が付かないかもしれませんが、知らず知らずのうちに、ボディーブローのように効いてきます。
難しいことを考えている皆さんは、一生懸命お仕事をされています。これについては否定する気は全くありません。しかしそれだけでは、売り上げを上げていくことが困難な時代になったということです。
経営者の皆さん、一度、自社を検証してみてはいかがでしょう? 挨拶に限らず、あなたの会社は簡単なことを当たり前にできていないかもしれません。