第207話「俺はもう一生分働いた」と話した社長の潔さ
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「先生、人はね、一生の内で働ける『量』というのがあるんですよ」「俺は、もう一生分働いたんで引退するんだ」「あとは、息子に任せるつもりさ」。ある会社の社長はこう言って、さっさと引退してしまいました。
この社長は若いころ自分で会社を興し、一生懸命働きました。夜も寝ずに仕事をしたと言います。まさか本当に夜寝ずに仕事をしてきたわけではなく、それくらい一生懸命だったということです。そのかいあって会社は順調に成長し、社員も増えました。
引退するのは、その一生懸命がたたって体を悪くしたということではありません。社長が言うには、人には一生の内に働ける量というものがあって、その量を超えると働けなくなるそうです。
この「量」は肉体的なものではなく、多分、精神的なものでしょう。肉体的なものであれば、体を壊さない限り働けます。事実、この社長も見た目はピンピンしています。悪いところはなさそうです。ところが「もう働けない」と言うのですから、やはり精神的なもので、やり切った感があるのでしょう。
ところで、人には寿命があります。生きていられる時間ですね。また健康寿命というのもあります。人として健康に生きていられる寿命ですね。そして経営者には経営寿命があります。経営者として、リーダーシップを発揮して働ける寿命です。
したがって、経営者として働けなくなれば引退するのが当然です。経営寿命が尽きたのですから。しかし、経営者とは言いながら老害としか言いようのない方もいます。社員からは「老人の跋扈(ばっこ)」と揶揄されてもお構いなし。周りが迷惑しているにもかかわらずです。
前出の社長は、この経営寿命に近い意味のことを話してくれたのかもしれません。自分で会社を興していますので「経営者として、今働かなければ働くときはない」といった覚悟だったはずです。それでなければ寝ずに働くことはできません。
重要なのは、働ける量にしても経営寿命にしても、それは有限だということです。「鉄は熱いうちに打て」と言いますが「働けるときに働かなければ、働くときはない」のです。経営者として十分に働いて、そして経営寿命が来たなら潔く引退する。経営者の美学じゃないでしょうか。
働く量も経営寿命も人それぞれでしょうが、今できることを悔いなくやっておく。働く量が満杯になっていなくて経営寿命が尽きた場合「あの時、やっていればなあ~」と後悔したくないですね。それだけは避けたいです。
ショールームをうまく回せていない経営者の方をたくさん見てきました。その中で、後悔しないように行動し、チャレンジする方はほんのわずかです。いいと分かっていても一歩足が前に出ない。そんな経営者の方に、これまでたくさんお会いしました。そのような方は、経営寿命が尽きたときに後悔しないでしょうか。
皆さんは、働ける量を意識していますか。経営寿命が、あとどれくらいあるか理解していますか? そして後悔せず、潔く引退できますか?