第196話 当社クライアント、A社の下請けビジネス脱却法



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「先生、もうどうしていいか分からないです」。以前、こう話していたのは当社のクライアント、A社の社長です。この会社は電子部品を下請けで作っていいて、受け身のビジネスから何とか脱却したいと、当社のコンサルティングを受けています。

 下請けからの脱却。なんと良い響きでしょう。ところが、そう簡単に脱却できるものではありません。簡単ではないから、当社のコンサルティングを受けているのです。

「下請け部品メーカーから脱却して、自社オリジナル製品で勝負したい」。こんな社長の思いがあったのと、現実的に高度な技術力を持ち合わせていたことが、社長が決断に至った理由です。

 表現の仕方は適切ではないかもしれませんが、下請けでは、いくらいい技術を持っていても受注先企業に吸い取られてしまいます。

「それで売り上げが上がって、お金をもらっているんだからいいじゃないか」と言う方は、それでいいでしょう。何も下請けが悪いと言っているのではありません。それできちんと仕事ができているのですから、誰にも文句を言われる筋合いではありません。

 しかし、です。この社長はそうは思っていませんでした。

「受注先から、やいのやいの言ってくるんですよ、先生」
「価格の決定権はないし、いざとなったら切り捨てですからね」
「そもそも、下請けじゃあビジネスとは言えませんよ」

 こんな思いがあって、何とか下請け脱却を図りたい。そのためにはショールームを作って技術力を認めてもらいたい。そんなことを考えていました。

 さて、コンサルティングでは先ず、自社に最適な形態のショールームとは何かを考えてもらいます。A社の場合、技術力はありましたが資金力にとぼしいです。とても「ハコ(建物)」「モノ(製品)」のショールームを作る余裕はありません。したがってショールームの一種、展示会を自主開催することから始めました。

「展示会はショールームじゃないでしょ⁈」

 そう思われた方はショールームの罠にはまっています。ハコモノだけがショールームではありません。展示会のほかに、モデルハウスもデパートの催事もショールームです。形があるとかないとか関係ありません。ショールームは見せて体験してもらって商談する場所です。そういう場所ならどこでもショールームです。

 さて、その展示会。全く集客できません。ショールーム営業を理解して実践していますが、集客ゼロです。もう何回も開催していますが、いつも空振りです。いい加減社長も困り果てて、冒頭の言葉になりました。

「社長、集客のことばかり気にしていますが、その前に売りモノはどうなんですか?」
「売りモノを磨いてください」

 A社はいい技術を使っていいモノを作りましたが、それを表現できていません。顧客に響くようなキャッチフレーズもなければ展示会のテーマもありません。

 下請け根性丸出しで、それが抜けきらないために、いちいち指示しないと気が付かないのです。コンサルティングで理解したはずなのに。

 当社では「頭で理解しても、実践できなければ分かったと言えませんよ」と申し上げています。A社はその典型です。

 しかし、A社社長が取り組んだ導線設計のおかげで、徐々に結果が出始めています。展示会で新規顧客を開拓できているのです。そうはいっても、下請けをやめたわけではありません。徐々に移行しなければ、会社はなくなってしまいます。

「もう少しお付き合いください、先生」と言われていますので、しばらくA社社長とお付き合いします。下請けから脱却して「独立中小企業」へと歩み始めています。A社が今後どのように変化していくか楽しみです。

 あなたは下請け稼業で苦しんでいませんか? その気になれば、やり方はいろいろあります。要は、その気になるかならないか、です。

 


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