第140話 一風変わった陶器のショールーム
東海地方は陶磁器の産地です。良質な原料が採れるからです。今ではどのような土や釉薬でも人工的に作ってしまいますが、大昔はその土地で採れる土や石を原料にして特徴のある焼き物を焼いていました。
特に、瀬戸・東濃地方は真っ白な土が採れることで知られています。土が白いということは、その上から絵が描けるということです。もちろん白くなくても絵は描けますが、自由度はかなり違います。したがって、大昔の陶工たちにとって白い土は憧れでした。
大昔というのは、今から400年前の安土桃山時代から江戸時代初期にかけてのことです。千利休から古田織部へと、茶の湯の時代が変わっていく頃です。このころは桃山陶といって、いわゆる「志野」「織部」「黄瀬戸」といった華やかな茶湯がはやっていました。
この桃山陶ですが、現在ではほとんどが美術館に収められていて、商品として流通することはごくまれです。たまに流通することはあっても、伝世品の茶碗であれば価格は数千万円という高値です。発掘された陶片だとしても数万円という価格です。
要するに、主だったものは美術館や数寄者の手に収まってしまっていて、我々一般の人にとって実際に購入することは現実的ではないということです。そして、新しく発見されることも期待できないということです。
かつて著名な陶芸家が「志野」「織部」「黄瀬戸」など、美濃桃山陶を再現しようと試みたことがあります。その出来栄えがよかったのか、何か作為的な考えがあったのかは分かりませんが、今でも非常に高値で取引されています。
しかし、本歌(「写し」に対し、その手本・原本となった作品・美術品のこと)にしても著名陶芸家の作品にしても、目玉が飛び出るくらいな値段です。数が少なくて欲しがる人が多いので高いのでしょうが、使い手としては残念でなりません。
そこで、美濃桃山陶を見て、その手で触って、実際にお茶を飲んでみたいという方に、ある一風変わったショールームをご紹介します。(ここでは実名を伏せますが、ご希望であれば当社のホームページのお問い合わせ欄から連絡をください。折り返し情報を差し上げます)
そのショールームには美濃桃山陶の写しが所狭しと並んでいます。使い方の提案もしています。展示即売ですので、もちろん触ることもできます。希望すればそれでお茶を飲むこともできます。
驚きなのは、本歌と写しの区別ができないということです。本歌の陶片と写しの陶片をどれだけじっくり見ても同じに見えます。見えるだけでなく手触りも同じです。なぜか・・・? 原料も焼き方も同じだからです。
要するに、400年前と同じ製法で作っているのです。違っているのは作っている時代だけです。そのため見分けが付きません。見分けがつかないということは本歌として流通した場合、大変なことになります。したがって作品には必ずサインを入れます。もしサインがなければ、本歌としてとてつもない値段で取引されるでしょう。
このショールームの主人は陶器師であり大学教授です。原料の研究、焼成の研究、意匠の研究、・・・。ありとあらゆる研究を重ね、この域にたどり着きました。その含蓄をお客様に惜しげもなく聞かせています。そして気になる値段は、本当にお小遣い程度で買える値段です。
ショールームには「驚き」と「感動」が必要です。いくらいい製品が展示してあっても、驚きと感動がなければ、それは「普通」のショールームです。
お客様は「非日常」を求めてショールームに来ています。その欲求を満たすものが驚きと感動です。この桃山陶のショールームには、驚きも感動も非日常もあります。だから売れているのです。
あなたのショールームには驚きと感動がありますか? 非日常はどうですか?