第129話 難しいことを易しく話すことの難しさ
大勢の中小企業経営者が集まった、あるセミナー会場でのことです(もちろんコロナ感染対策はされています)。講師は、大手コンサルファームのマーケティング系コンサルタント。スーツをびしっと着こなして、いかにもエリート感が出ています。
彼は冒頭からマーケティングの専門用語を使い、プロジェクターでデータを示しながら論理的に話していきます。何か難しい話をしていて、何が言いたいのかあまりよく分かりません。
話していること自体は分かるのですが、論理的過ぎて何か追い立てられるような気分です。そんなことを思いつつ講義に耳を傾けていたところ、前の席のお二人がこんな会話を始めました。
「あの、今の『プロダクトアウト』と『マーケットイン』って分かりました?」
「いや、分かりません。ちょっと調べてみます」
どうやらお二人は、講義の途中でスマホを取り出して今の言葉を調べているようです。
「あ~、そういう意味か・・・」
よくある話です。
講師はその道の専門ですので、専門用語を使いたがります。「自分はこんな専門家で、あなたたちより上の立場なんだよ」とでも言いたげです。特に頭でっかちなコンサルファームのコンサルタントは、この傾向が強いと言えます。
しかし、いくらエリートコンサルタントでも経営に責任を持たない会社員です。自分の体を張った中小企業の経営者とは、立ち位置が違います。
ところがそんなことはお構いなしで、どんどん話を進めていきます。前の席のお二人は、何か諦めたかのように聞くことをやめてしまいました。それでも講義が終わった後は、会場からそれほど大きくない拍手が起きました。司会者から促された「義理」拍手です。
マーケティングの専門家なのはいいですし、大手コンサルファームのエリートコンサルタントもいいですが、話が分からないのはどうにもいけません。
「専門用語を使わないと正確に伝わらない」「日本語に直すと意味が変わってしまう」「日本語に翻訳しにくい」といったばかげた理由で、より分かりにくい専門用語やカタカナ語で話しています。「ここは学界ではないんだぞ!」と言いたいですよね。
ある東京都知事が「ロックダウン」とか「オーバーシュート」とか言っていましたが、多少意味が変わったとしても日本語で話した方が多くの人には伝わったはずです。
それをカッコよく?カタカナ語で話すものですから、こちらはスマホで意味を調べる羽目になりました。「都民ファースト」ですから都民に分かりやすく話すべきです。
それはさておき「プロダクトアウト」と「マーケットイン」です。これも日本語では、意味は正確に伝わりにくいのかもしれませんが、そんなことは小さなことです。大体、聴講者に講義中、スマホで意味を調べさせるようではコンサルタントとは言えません。
実務コンサルタントは、誰にでもわかるような言葉で、易しく丁寧に説明します。難しいことを易しく話すことのできるコンサルタントが、本物のコンサルタントです。 しかし、これが案外難しいのです。
以前、NHKで週間子供ニュースを担当していた池上彰さんを覚えていますか?池上さんは難しい政治・経済の話を、小学生でもわかるように易しく解説していました。現在でも池上さんのニュース解説は分かりやすくて大人気です。
池上さんのようにと言っているわけではありませんが、そういう風に心掛けたほうがいいですよと言っているのです。そして、学校やどこかで習ったような知識を無変換でそのまま使わないほうがいいです。言葉に深みがありませんから、すぐ分かってしまいます。
あなたは社員の人たちに、専門用語を使わずに分かりやすく話せていますか?