第96話 資格は取ってみたけれど
資格というと本当にたくさんの種類があります。難易度で言えば司法試験、公認会計士試験が最難関でしょう。有名なのは日商簿記検定試験、税理士試験、社会労務士試験、行政書士試験、司法書士試験などがあります。このうち日商簿記試験以外は独占業務があり、それぞれの専門家として自立することもできます。
しかし、日商簿記試験は独占業務がありませんので、検定試験に通っても、それだけで食べていけるということはかなり難しいです。ただし、就職や転職には有利になるでしょうし、社内の有資格者優遇制度で昇進や手当ても期待できるでしょう。
一方、資格試験全般に言えることですが、独占業務がある資格を取得したからと言って、仕事が舞い込んでくるわけでもありませんので営業しなければなりません。営業したくないから資格を取ったという方もいましたが、ちょっと勘違いされているようです。
会社で働いているにもかかわらず、何かの資格を取得する意味はあるのでしょうか?例えば銀行は、中小企業診断士やフィナンシャルプランナーの資格取得を推奨しています。合格者の氏名を外部から見えるように張り出すくらいですから、自社にいかに優秀な人材がそろっているかを示したいのだと思います。
ある会社の役員会に呼ばれたときのことです。資格を取得した社員を、何かの形で優遇したらどうかという議論になりました。資格と言っても業務に関連した資格でなければ意味がありません。しかし日商簿記のような、一般教養的な資格もあり、どう取り扱うかで議論が紛糾しだしました。
「細井先生、どう思いますか?」オブザーバーのつもりで出席していたにもかかわらず、社長からいきなり意見を求められたので一瞬ドギマギしましたが、正直なところを意見として述べました。
議論が紛糾したのは、役員のほとんどが資格と言えるものを持っておらず、しかも「簿記ってなに?」というレベルであったため、資格取得者をどのように評価すればいいか分からなかったということが原因です。資格の難易度も、仕事に役立てる方法も分からないのに、制度を導入しても評価のしようがないというのが、反対派の隠された本音です。
会社には評価されなくても自主的に勉強し、資格を取得した社員も何人かいます。ある男性営業社員は経済の知識がなければ、顧客と対等に営業できないといって経済系の資格を取得しました。また、経理関係の仕事をしているある女性社員は、自分が日々やっている経理の仕事の意味を知りたいといって簿記の資格を取得しました。こういった社員は当然報われるべきです。
ある大手鉄鋼商社は、新入営業社員に日商簿記検定試験3級取得を義務付けています。取得できるまで営業として活動できません。営業職として入社したにもかかわらず、取得できるまで営業業務ができないのですから、なかなかつらいものがあります。したがって、ほとんどの新入営業社員は入社前もしくは入社後すぐ取得してしまいます。
このような意見を役員会で申し上げたのですが、「そんな知識はどこで使うんだ?」という反対派役員の一言でこの議論は終了しました。
一般的に、国が農業国から工業国へ発展するためには、国民に中高等教育が必要だといいます。同じように、会社を発展させるのに必要なのは、社員に対する開かれた教育です。会社は極端なヒエラルヒー構造では発展しません。ショールーム営業うんぬんの前に、この構造改革が必要な会社の例です。
あなたの会社はどんな社員教育をしていますか?もしかしたら埋もれた人材が社内にいるかもしれません。そのような人材を発掘するのも経営者の仕事です。