第94話 見よう見まねで経営はできない

「見よう見まね」という言葉があります。人がやっているさまを見て、同じように真似をするという意味です。人は人のまねをすることでやり方を覚え、少しづつ自分に合ったやり方、自分のスタイルを確立していきます。したがって、人のまねをすることは大切なことであり、お手本がいるということは幸せなことでもあります。

 しかし、これは時には薬にも毒にもなります。始めたころは自分に何もない状態なため、人がやっていることを真似ます。それしかできないからです。ところが、いつまでたっても人のまねをしていては自立できません。早く自分のスタイルを作るべきです。もう1つ、技術的なことは真似ることができても、感覚的なことを真似することはできません。それを真似しても身につきません。

「見よう見まねでやってみましたが、細井先生の言うとおりうまくできませんでした」

 こう話すのは、当社のセミナーを受講し、その後、個別相談を終えたリフォーム会社の社長です。この社長、勉強好きで、有料・無料、大規模・小規模を問わずセミナーが近くであると必ず出かけます。セミナーを聞いて勉強していると言えば聞こえはいいですが、テーマが定まっていないため、ただ聞いて「あ~、いいセミナーだった」という感想がほとんどです。

 そしてそれを、無変換で社内に持ち込んでしまうため社員は右往左往します。しかも、うまくいかないのを見て途中で方向転換してしまい現場が混乱するのもしばしばです。

「社長、技術的なことは真似てもいいですが、思想的なことをまねても無駄ですよ」「セミナーで聞いたことや本で読んだことを真似てはだめです」「だいいち、そんなことで会社が良くなるなんてことはありません。社長自ら現場で苦しみ自分のものにしていくものです」こう申し上げました。

 経営者の方の中には、ビジネスで成功した社長が書いた本や、雑誌の対談を読むのが好きな方がいます。いろいろ読むうちに、自分の考え方と似た人の話を見つけ「ほら、こんな大社長も俺と一緒のことを言っている」「やっぱり俺は正しかった」などと勘違いします。そして都合よく、援軍を得たつもりで部下に指示を出します。

 成功した大社長は、たまたまその当時のやり方で成果を出したわけであって、そのやり方や考え方が今のあなたの会社に通用するとは限りません。そんな中でも参考にできるものとして、王道的なもの、例えば「キャッシュ・イズ・キング」「現場主義」などはぜひ真似をしなければなりませんが、思想的なものは部下に押し付けても無理があります。

 前出の社長は、どうやら雑誌の特集で、ある企業のショールーム記事を読み「うちの会社のショールームが使えない理由が分かった!」「この会社みたいにもっとお客様にゆったり見てもらうように広く豪華にしなければ」というように思ったらしいのです。

 そしてそれを鵜呑みにして、ショールームを改装しリニューアルオープンしました。当初は物珍しさにお客様も何組か来てくれたようですが、1か月、2か月、そして半年を過ぎるころにはショールームは元に戻って閑古鳥が鳴く始末。これではダメだと当社のセミナーに参加され、ようやく目からうろこが落ちました。

 これからどうしていこうか思案中ですが、このもったいないショールームを生かす方法を考えなければなりません。また、社長が1人で突っ走ってきたため社員は白けています。あまりにも独善的だからです。しかし、この社長のいいところは、人の話をよく聞いて間違ったところは素直に直すところです。

「先生、見よう見まねはダメだと今度こそわかりました」「頑張ってやり直しますので何とかお願いします」

 最初から当社にご相談いただければ、無駄なお金と時間を使わずに済みましたが、過去を振り返っても仕方ありません。それよりもこれからどうするかです。今後、どのようにこの会社と社長が変わっていくか楽しみです。

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