第110話 大企業の論理は中小企業には通用しない
中小企業と長くお付き合いしていると、大企業の論理は全く通用しないことが分かります。しかし、今、大企業であったとしても、創業当時は中小零細企業だったわけですから、その当時の役員は、中小企業経営者として肌感覚の経営をしていたということになります。そして、少しづつ論理性を身につけながら大企業に成長していきました。
B社は地方のプラント工事会社です。今から数十年前、4人の仲間が集まって創業しました。一番年上の、リーダー格の人物が一番多く出資して社長に就任しました。ほかの3人は、それぞれ年齢の順番に多く出資し、役職もその順番の通りに就任しました。
役職と言っても、ほかに社員はいないわけですから、役員だろうと現場で働かざるを得ません。「いつかきっと立派な工事会社にするぞ」と誓いながら働きました。やがて少しづつ社員が増え、それにつれ業績も伸びていきます。大手企業の工場の仕事を請けるようになり、売上も利益も信用もついてきます。そして、地域1番店と呼ばれるようになったころのことです。
「細井先生、先代の社長が亡くなって、今、自分が2代目社長として経営しているんですが、ちょっと不安な点がありまして・・・」
リーダー格だった初代社長が亡くなって、現経営者として跡を継いだ社長がこぼした言葉です。
「社長、何か困ったことでもあるんですか?御社の会社情報を拝見しましたが、事業は順調ですし財務内容もいい。傍目に見て何も問題はなさそうですが」
「実は、先代社長が持っていた株を娘さんが相続したんですが、その婿さんが今、会社にいるんです」「いずれ社長になるんですが、メガバンク出身のエリートなんです」「我々とは経営のやり方が根本的に違っていて、大企業の論理で経営しようとしています。どうしたらいいでしょう?」
「ショールーム営業コンサルタントにそんなこと聞かれても困るなあ」と思いつつも、中小企業に長年勤めていたわが身とすれば、全く経験がないわけではありませんので、「社長、お役に立てるかどうか分かりませんよ」と前置きして話を聞くことになりました。
問題点を整理すると、以下のようなものです。
1、これまでの仕事のやり方と、これからのやり方が全く異なっていて、ほかの役員も社員も戸惑っている
2、これまでは理屈ではなく経験と感覚で経営していたが、これからは論理性を大切にすると言われて、どうすれば良いのかよく分からない
3、いくら大株主から委任されたとはいえ、現場を知らない人から指示命令されるのは違和感がある
娘婿の後継社長はメガバンク出身で、決算書を読みこなす能力にたけているという自慢めいた自負があります。一方、現経営陣は、何十年とこの会社を守り発展させてきたという自負があります。この自負同士がぶつかっては話し合いになりません。コミュニケーションが取れていない状態だったのです。
実際のところ、当事者同士の意見の相違は、当事者同士ではなかなか解決できないのですが、間に入って話をまとめてほしいという依頼があり、お手伝いすることになりました。当社は、コミュニケーション組織を作るというコンサルティングを行っているため、多少でもお役に立てればという気持ちです。
さしあたって話を聞いてみると、お互いに感情的になっていますので、なかなか冷静に議論ができません。また、論理的に議論しようにも、現経営陣は論理に慣れていません。したがって、両者だけでは議論しようにも議論になりません。仕方ありませんので、定期的な会議に当社が出席することにしました。
総論は、会社の発展をどうデザインするべきかということですが、そのために各論の問題点を整理し、一つずつ整合性を取るやり方をしていくことにしました。しばらくは喧嘩になってもいいので、自由に発言してもらいます。そして、出尽くした時点で、「じゃあ、どうしようか?」に持ち込む作戦です。
信頼感のある喧嘩であれば、いくら喧嘩しても構いません。それによって、チームが出来上がります。しかし、今は、お互いにその信頼感がありません。したがって、信頼関係を取り戻すことから始めることになります。時間はかかりますが、それが一番の近道です。