第100話 プロに「よくやった」という評価はない

 暑い夏がそろそろ終わりに近づき、もうそろそろ涼しくなってほしいと思っている方が多いでしょう。いつもの夏ならレジャーや祭りでにぎわい、秋めいてくると何となくさみしさがやってくるような時期ですが、今年は、お盆休みから長雨が続き、うんざりしていることでしょう。昨年も今年も夏の賑わいはなく、蒸し暑いにもかかわらずマスクをかけていなければならない、なんともさえない夏でした。

 今年の夏は、1年延期になった東京オリンピックが開催され、連日テレビにくぎ付けになっていた方も多いと思います。それが無事(?)終了して、今度はそれが心のロスになっています。それだけ何もない夏だったといえます。

 東京オリンピック開催は賛否両論ありましたが、競技をテレビで見ていて改めて勝負の厳しさを思い知らされたでしょう。人生をかけた勝負で勝つ人、負ける人、それぞれ涙するのを見て感動させられます。色々言われたオリンピックでしたが、テレビを見ているときだけはそんなことを忘れさせてくれました。

「細井先生、先日のオリンピックの試合を見ていてどうも気にかかる事があるんです」

 こう話すのは、お付き合いのある会社の経営者の方です。この方、中小企業経営者ですがオーナーではありません。いわゆる雇われ社長です。その方が気にかかる事とは・・・。

「先生、テレビのアナウンサーや解説者が負けた選手に『よくやった』『よく頑張った』『次がある』なんて言っていましたけど、それはアマチュア選手なら通用するけどプロの選手には通用しないと思うんです」                   「私は雇われのプロ経営者ですから、結果が出なければ即クビになっても仕方ないんですよ」

 日本人の国民性として、たとえプロであってもあまりに厳しい言葉を浴びせるというのは好まないとはわかっていても、この社長は何か釈然としない感覚を持っていました。

「そんなこと言ってるから海外のトップと差が縮まらないんだよね」

 この社長がどの競技のことをいっているかは伏せておきますが、どうやら、期待されながらあと一歩のところで勝利できない日本チームに忸怩たる思いがあるようです。

 以前のオリンピックはアマチュア選手がほとんどでしたが、現在ではプロの参加が認められています。以前の名残があるのか国民性なのかは別として「よく頑張った」ではプロとして通用しないというのがこの方の持論です。この方が言う通り、プロの経営者であれば、短期的なのか長期的なのかは別として結果が求められます。

 ビジネスに勝ち負けはありませんが、目標とする結果が出せなければ経営者として失格です。プロの経営者であれば、結果を残せないならオーナーから委任を打ち切られるだけですが、オーナー経営者であれば、自分の首を切ってくれる他人はいませんので、結果が出ないということは会社の衰退ということになります。逆に言えば、自分の首を自分で切れる勇気と覚悟がある経営者の方ならば、結果を出せないということはないでしょう。

「先生、私は雇われの経営者ですけど、オーナーからは好きにやっていいといわれています」                          「そのおかげで、これまで目標を上回る結果を出してきました」

 この経営者の方の手法は決して短期的なものではなく、長期的な展望で、会社の組織やしくみをどのようにデザインするかを常に念頭に置いて経営をしてきました。一時的な売り上げの落ち込みや、社員の不満に対して慌てふためいて方向転換するようなことはなく、また、オーナーもそれを信じて経営を委任してきました。

 それは長期的な目標である、大企業に依存した経営からの脱却と社員の自立を達成するためです。いわば生みの苦しみを、このオーナーは経営者と耐えているのです。好き嫌いや、頑張っている、よくやっているで評価するような古い体質から脱却するため、この経営者はオーナーから委任されました。

 委任した以上、見守る忍耐力が必要です。この会社のオーナーは、自分では会社を改革できないことを知って自分で自分の首を切り、株主として生きていく決断をしました。そして、経営者が困っているときは手を差し伸べ、それ以外はじっと見守る勇気を持っています。

「先生、実は、新しくショールームを作ることにしました」                                          「投資とすると大掛かりなものになりますので、先生にご指導いただきたいです」

 つい先日、このような話になりました。どうやら社内改革も順調に進み、ここらで1つ社員の目に見えるような形で目標を持ってもらおうという経営者の方の考えです。ショールームはハコ型(建物の意味)ですので、結構な金額の投資になります。しかし、これまでの社内改革の成果を表すための装置として、ショールームを作る決断をしました。もちろんオーナーも賛成です。

 ショールームを使って自分たちの構造改革の成果を示したい。それが正しかったという証としたい。もちろん、さらに売上・利益を増大させたいという直接的な目的もあります。

 この会社は、経営と資本が分離されていますが、それぞれに信頼関係があり、それぞれに勇気と覚悟を持っています。多少の売り上げの減少や社内のごたごたに慌てふためくことなく、真に会社を改革してくれる経営者を、この会社のオーナーは信頼しています。長期的な視点に立って経営を任せられる人材こそが、本当に会社に必要な人材です。

 この経営者はオーナーの期待に応え、次なる一手を打ちました。当社としても全力でお手伝いします。