第97話 生き残りをかけた戦い
今現在、人類はコロナとの戦いに明け暮れています。しかしそんな中、本当に開催できるのかと心配された東京オリンピックも、強引に(?)開催にこぎつけましたし、サッカーワールドカップの予選も始まっています。オリンピック・パラリンピックは開催ありきとの批判もあるようですが、選手の皆さんはそれを目標に頑張ってきただけに、ベストを尽くせるよう頑張ってもらいたいと願うばかりです。
ところで、戦っているのはオリンピック選手やサッカー選手だけではありません。ビジネスの世界でも、興亡が始まっています。特に、飲食店や旅行、運輸業界は需要が落ち込み、倒産、閉店、縮小が相次いで報道されています。「もう勘弁してくれ」という悲痛な叫び声が聞こえてきます。
一方、巣ごもり需要のゲームや医薬、日用品は大きく業績を伸ばし、通信機器もテレワークなどの需要をうまく取り込んでいます。世の中の仕組みやルールが変わるときに、このように興亡が顕著に起きます。
梅雨明けした直後の暑い日に、その社長はやってきました。何やら頭の中はもやもやしていてすっきりしないようです。自分の考えがまとまらずに、今後どのようにショールームを運営したらいいか迷っているようでした。
「細井先生、ちょっとお聞きしたいことがあります。このところ、コロナの影響でうちのショールームの来館者数が激減しています。ちょっと心配なんですが、どうしたらいいでしょう?」
確かに、来館者数が激減しているのは見ていて気持ちのいいものではありません。やはり、ショールームはにぎわっていてなんぼのものです。しかしそうかといって、冷やかしが多くても忙しいばかりで売り上げにもなりません。これをどう判断するかです。
経営者の方の中には「売り上げは来館者数に比例する」「売り上げが上がっていればそのうち何とかなる」このように考える方は結構いらっしゃいます。確かに、来館者数が増えなければ売り上げにはならないでしょうし、売り上げがなければ利益にもなりません。ただ・・・、何のためのショールームかということがはっきりしていなければ、その使い方を誤ることになりかねません。
「社長、何のためのショールームなのか考えたことはありますか?」 「確かに、人が集まってにぎやかなショールームであれば表面上はいうことはないでしょうが、だからといって売り上げに直結するとは限りませんよ」
B2Cビジネスモデルでは知名度、ブランド力、消費者心理という取引要件があります。B2Bモデルであれば、技術力、品質、納期といった取引要件があります。B2Bモデルのこの会社のショールームに知名度、ブランド力、消費者心理が必要かといえば必ずしもそうではありません。したがって、ショールームもそのような形態やコンセプトにしなければなりません。
「先生、うちのショールームは、社運をかけて作ったものです。絶対失敗はできません」 「これは生き残りをかけた戦いです。コロナだからといって負けるわけにはいきません」
失敗したくない、コロナで負けたといわれたくない、といった気持ちは痛いほどよくわかります。これまでにいくつもの失敗したショールームを見てきました。しかし、少し冷静に考える必要があります。実は、失敗の原因は、大体5つのパターンに収れんされることが分かっています。そしてそれは、外部環境の影響ではなく内部環境にあるということです。
この会社のショールームは、なぜかB2Cモデルになっていました。集客の仕方も、人を多く集めることを優先に考えていました。B2Bで冷やかしの来館者は来ないでしょうが、購買決定権のない人を集客しても売り上げにはつながらないでしょう。
社長にはこのような話をしたところ、ずいぶん納得したようで「ありがとうございます、さっそく自社で改善に取り組んでみます」とのことでしたので、成り行きを見守ることになりました。ただ、そう簡単にはいかないだろうとも思っていますので数か月後か1年後、またこの社長とお会いすることになるでしょう。