第95話 社員の一生懸命を評価してはいけない

 仕事をするということはどんな意味があるでしょう?生活のため、人生の目標・目的達成のため、自己実現のため、社会的責任を果たすため、人それぞれにいろいろな意味があるでしょう。新入社員のころは希望と期待に胸を膨らませて入社した若者も、5年10年と仕事をしていくうちに意味を見出せなくなる時があります。

 男性であれば、ただ毎日同じ仕事をして、帰りに居酒屋で一杯飲んで、家に帰れば奥さんの愚痴を聞いて、子供の顔を見て寝るだけ。新入社員の頃の自分はどこへ行ったのだろうと思う時があります。しかし今更何ができるわけでもなく、会社にしがみついていなければ家族を食べさせていけない自分に情けなくなります。

 「自分が働くのはお金を稼ぐためで、それ以外の目的はない」という方がいました。そして、定年前55歳の時に「俺はもう十分働いたから会社を辞める」「この先、生きていくためのお金は稼いだ」といって、あっさり会社を辞めました。そして今は、自分の好きなことをして生きています。

「そんなことでボケてしまわないか?」という周りの心配を吹き飛ばすように人生を楽しんでいます。それはそれで大変立派な生き方だと思うと同時に、心なしかうらやましく思えてきます。

 経営者のあなたは、社員が一生懸命仕事をしているのを見てどのように評価しますか?「一生懸命働いてくれてありがとう」「一生懸命働いているのだから評価しなければ」そう思うのが人情ですね。人事評価でも「ボーナスの支給額を決める時、家族の顔がつい浮かんできて点数が甘くなる」という経営者の方がいました。素晴らしいと思う反面、本当にそれで公平な評価ができるのだろうかと心配になります。

 「細井先生、ショールームアドバイザーのAさんは、一生懸命やってくれるので評価したいんだけど、イマイチ来館者の評判が良くないんだよね」

「だから成約率が低くて、売り上げの面では評価は低い方なんです。どう評価したらいいでしょう?」

 ショールーム営業コンサルタントに、人事評価のアドバイスを求められても困るなあと思いながらも、評価の仕方ではなく、どう解決したらいいかをアドバイスすることにしました。

 この会社は社員20人程度の製造小売業で、小さなショールームを持っています。自社製品のPRを兼ねてイベントやセミナーを定期的に開催していますが、その時にAさんが接客や製品説明をします。もちろん、普段の時の来館者もAさんが接客します。しかし、評判があまり芳しくありません。それは、Aさんの接客に笑顔がないからだとアンケートからわかっています。

 製品説明は丁寧で正確にできているのですが、簡単に言えばぶっきらぼうなため、来館者に驚きや感動を与えることができません。ショールームアドバイザーとするとそこが大変重要なところなのですが、性格的に無理があります。代わりにほかの社員でできないか検討してみましたが、代わりにできる人はいません。何よりAさんはこの仕事に誇りを持っています。さあ、どうしたらいいでしょう。

 ショールームにやってくる来館者は、見込み客もいれば冷やかしの客もいます。Aさんはこの来館者すべてに対応していました。しかし、来館者のうち見込み客は2~3割程度です。購買に至るのは1割程度です。そのすべてに対応しなければならなかったAさんは結構忙しくしていました。それで「一生懸命やっている」と評価されていたのです。

 そこで、バーチャルセールスアシスタントという仕組みを導入し、来館者を冷やかし客と見込み客に分けて接客することにしました。来館者がショールームに入館すると、まず、大きな鏡と対面します。するとミラーコンシェルジュというアバターが鏡の中から現れ、来館者に微笑みながら挨拶し、館内の案内と製品説明を写真や動画を使って行います。それが終われば来館者はショールーム内を自由に見ることができます。無人ですから気楽に見てもらえます。

 その中から本当に興味のある来館者は、Aさんを呼び出してより詳しい説明をしてもらうという仕組みです。これによって、冷やかしと見込み客を分け、見込み客だけをAさんが接客することになりました。Aさんは以前より余裕ができ、多少は笑顔も作れるようになりました。何より、製品に興味を持った見込み客を相手にするわけですから、成約率はあがります。1割程度だった成約率が2割以上になりました。Aさんの一生懸命は、この仕組みで報われたと言えます。

 適材適所という言葉がありますが、人材に限りのある中小企業が実行するのは無理があります。それよりも、その人の足らない部分を、だれがどのように補えばいいかを考える方が現実的です。この会社の場合は、バーチャルセールスアシスタントという仕組みがAさんを補いました。また、それによりAさんの評価は以前より上がったのです。

 たいていの場合、社員は自分なりに一生懸命仕事をしています。しかし、それが空回りして成果の出ないときもあります。一生懸命を認めるなら、その一生懸命をどう使えば成果が出るか、経営者の方は考えるべきです。