第93話 家庭内の親子の関係と会社内の上司・部下の関係

 中小企業の場合、資本の所有と経営が一体となっていることがほとんどです。起業家が小資本を元手に事業を起こし、コツコツためたお金を投資し、売上を上げ利益を少しづつ蓄積していきます。すると会社は順調に成長し、社員もどんどん増えていきます。

 しかし、これまで一生懸命働いて、気が付くと自分ももう若くない年齢になってしまいました。若い頃のように疲れ知らずで働くことは今はもうできません。幸い、息子が後を継いでくれています。サラリーマンをやめ、自分の会社に入ってくれました。自分が年を取ったせいもあって、のんびりしているわけにはいきません。トントンと昇進させて今は専務取締役です。もう1~2年したら副社長、5年以内には社長にさせて、自分は会長として経営を見るつもりです。もうしばらくしたら肩の荷を下ろしたいと思い始めている頃です。

「細井先生、家で息子と事業承継について話すのですが、息子はイマイチ真剣に考えないんです」

「そんなに時間はないのでもうちょっと仕事に集中してほしいんですが、ゴルフに夢中で困っています」

 この会社は、ショールームを持っていながらなかなか活用できずに、ほったらかし状態になっています。偶然当社のホームページを見つけ、セミナーにご参加いただいた縁で個別相談にお越しになった中小製造業の社長です。自分で起業し長年一生懸命働いて、資本家としても経営者としてもある一定の成功を収めました。

 社長本人は満足していても、事業は承継しなければなりません。これからまだ気苦労が絶えない、本当に難しい時期に入ります。その後継ぎである息子が、まだまだ親を頼り切って、自分は遊びに夢中になっています。資本家であり経営者ですので、それを見て社員が不平不満を表立っていうことはありませんが、社長は内心不安でたまりません。勢い家庭の中でも仕事の話になります。

 息子からすれば、仕事を離れればいい夫であり、いい父親でありたいのですが、社長がそうさせてくれません。社長からすればそれが気に入らないのです。したがって、顔を合わせればどうしても仕事の話になってしまいます。しかし、息子は聞いているのかいないのか、生返事を繰り返すのみ。社長はそれがまた気に入りません。

 会社で顔を合わせれば、一応上司と部下ですのであいさつくらいはします。また、目の前の事務的な打ち合わせは通常の上司と部下の関係ではあるものの、いざ将来の話になると途端に険悪になります。特に息子はそのことには触れたくないようで、ふんふんとしかいいません。一応、幹部や一般社員の前ではそれらしく立ち振る舞いますが、社長室で2人きりになったとたん親子に戻ってしまいます。

「お前、ショールームをどうするつもりだ?」

「そんなこと知らないよ。おやじが勝手に作ったんだろ、自分で面倒見ろよ」

大金をつぎ込んで作ったショールームは使われずに放置です。何とか使いたいと思っても、ショールーム担当の息子がその気になってくれなければ、宝の持ち腐れです。

「先生、新製品の宣伝をショールームでやりたいんですけど、何とかできませんか?」

 社長の「何とかできませんか?」というのは、息子を何とかその気にさせてほしいということです。当社のコンサルティングとはちょっと方向が違い、責任も持てないためお断りしようと考えたのですが、社長から「何としても」という懇願に近い依頼があったため取り組むことにしました。

 まずはショールームをどう使うかということよりも、息子である専務をどうしたらその気にさせられるかから始めます。息子とじっくり話す機会を設け、本音を聞き出します。なかなか本音を言わない方でしたが、2回3回と繰り返すうちぽつりぽつりと話し始めます。どうやら父親である社長に反発しているだけのようです。まだまだ遊びたい年頃ですから、社長から事業承継でヤイノヤイノ言われるのが気に入りません。それで、会社でも親子の関係になってしまいます。

 こうなった原因は、社長が甘やかせて育てたからです。「自分は若い頃苦労した。息子にはそんな苦労はさせたくない」そんな親心が災いしています。人の親ならみなそう思うでしょうが、息子を一人前の経営者に育て上げるにはその親心が邪魔です。一般社員と同じ、いや、それ以上に厳しくしなければ将来不幸なことになります。

 分かっちゃいるけどできないのが人の親。しかし、会社では上司と部下の関係です。上司の命令ですので部下は従うのが当たり前。それができないなら、ショールーム担当から外すか最悪降格です。

 それもできないというなら、社長は引退してください。そうしたら息子はやる気になります。コンサルティングの冒頭はこんな内容になりました。甘やかされて育った後継者が、事業を発展させたなんて話は聞いたことがありません。