第88話 キッチンのショールームが表参道にある理由 

 東京新宿に、住まいのショールームが集積していることをご存じでしょうか。新宿駅から東京都庁あたりにかけて、大手住宅関連のショールームが20以上集まっています。1日で見て回るには多すぎますし、歩くにはエリアも広いですから、1つ1つじっくり見学するには何日もかけてということになります。

 このエリアには、住宅関連だけでなく通販会社のショールームもあり、また、イベントとして展示会も開催されていることがあり、本当に楽しく過ごせるエリアです。

 ショールームというのはポツンと単独で存在するより、狭いエリアに数多く集まっている方が良いとされています。ライバル会社のショールームの中に埋もれてしまわないかという心配はありますが、それよりも見学者の利便性が優先です。

 狭いエリアに集まっていれば見学者は効率よく見て回ることができ、その中から自分の好みのメーカーや製品を選ぶことができます。したがって、人を集めやすいというメリットがショールーム側としてあります。

 しかし、先ほど述べたように、多数の中の1つになる可能性もありますので、そこは各社工夫して独自の製品開発や丁寧な接客に努めています。

「細井先生、このあいだ仕事に行く途中、表参道を歩いていたらキッチンメーカーのショールームがあったんですよ、偶然見つけたんですけど」

「キッチンのショールームなのになんで表参道なんですかね?」

 表参道をご存じない方に少しだけ説明しておきます。ここは、国内やヨーロッパブランドのアパレル、バッグ、自動車などの店が目抜き通りに立ち並び、有名美術館や有名私立大学も近くにあるという、若者からシニアまで楽しめる活気ある街です。

 そんなエリアにキッチンメーカーのショールームがあるのが不思議。普通なら新宿じゃないの?というのが真意です。確かに、先ほどのショールームが集まる理由・理屈からすれば、新宿にある方が見学者のためにはいいのかもしれません。

 しかし、このキッチンメーカーは非常に独特な製品開発を行っています。どんな製品だと思いますか?空飛ぶキッチン?さすがにそのようなキッチンではありません。実は、キッチン機能付きインテリア家具と言えばいいでしょうか、そういうイメージです。

 加えて、輸入家具の取り扱いが多く、昔の流し台メーカーのイメージは全くありません。歴史的には、20年以上前に流し台メーカーから脱皮したと言っていいでしょう。それまでは公団住宅や一般家庭で使われる、ごく普通の流し台を作っていました。現在では、おしゃれなインテリア家具メーカーおよび輸入商社といった位置づけです。この製品群からすれば、新宿ではなくファッショナブルな表参道という選択もうなずけます。

「社長、社長はショールームの中に入って製品をよく見ましたか?」

「ちゃんと見たら、なんで表参道なのかよくわかりますよ」

 ショールームを作るとき、ショールームの一般的なイメージが邪魔をして、画一的なショールームを作ってしまいます。「そんなことはない、うちのショールームは特徴ある建物と内装のデザインで、よそとは差別化できている」とおっしゃる方がいますが、これだからショールームを使いこなせないのです。

 画一的というのは、建物という「ハコ」に、製品という「モノ」を詰め込んでしまうということです。建物が奇抜だとか豪華だとかいう問題ではありません。これ自体悪いわけではありませんが、それが自社に適しているかということが問題なのです。そして「ハコ」「モノ」だけではなく、「立地」も含みます。おしゃれなキッチン機能付きインテリア家具や洗練された輸入家具を見せるのに、本当に新宿でいいのかということです。

 後日、この社長から連絡が来ました。

「先生、例の表参道のショールームに行ってきました」

「いや~、先生の言う通り、あれはやっぱり表参道が似合ってますね」

 話をまとめるとこうです。この社長、霧のような雨の中を、地下鉄の駅を降りてショールームめがけて歩き出しました。目抜き通りには有名DCブランドの店舗やヨーロッパブランドの自動車ディーラーなどが立ち並び、通りの1本わきに入るとレストラン、カフェ、料理店が点在しています。

キョロキョロ見ながら歩くこと5分。目的地は、わき道に入った静かな路地に面していました。ショールームに入るとすぐに、スーツをきっちり身にまとった男性アドバイザーが近寄ってきてあいさつしてくれます。ちょっと見学したい旨を告げ自由に見ていると、邪魔にならない距離感で製品説明をしてくれます。

 ショールームには、国内メーカーとは雰囲気の異なるキッチンや家具が並んでいます。「えっ、これキッチンなの?!」というものまであります。退館するときには、丁寧なお礼と再度の訪問を促されました。製品はもとより接客技術まで他のメーカーとは一線を画しています。「ああ、やっぱり違う」と感じ、「それで表参道か」と納得した様子でした。

 皆さんがショールームを作るとき、どうしても「ハコ」「モノ」のイメージで考えがちです。そして「立地」は同業他社のショールームが集まった場所とか駅前とか目抜き通りを選びがちです。ところが、今回ご紹介したメーカーのショールームは、駅からはそう遠くない場所にありますが、通りを1本入った狭い路地で少しわかりにくい場所にあります。しかも表参道のファッション街です。

 自社に最適な形態のショールームというのは、自社の業種・業態、取引形態、取扱製品など、総合的に考えたうえで作る必要があります。ここを間違えると、まず修正は効きません。ここは、儲かるショールームを作る1丁目1番地なのです。

 今、このコラムを読んでいる方でショールーム作りを検討をしている方は、いったん立ち止まってよく考えてください。実は、もう一つ注意が必要です。自社に最適な形態のショールームさえあれば成功すると思った方、危険です。また失敗します。成功するには、加えてショールームを回すための組織が必要です。

 そんなこと言われても難しいと思われた方、前出の社長は「ショールーム営業」のしくみを取り入れて成果を出しつつあります。どんな会社でも、どんなビジネスモデルでも、今いる人材や設備で必ずできることが「ショールーム営業」の特徴です。次はあなたの番です。