第83話 いいモノを作っても売れない

 農業という職業は、朝陽が昇り夕方陽が落ちるまで体を動かすため健康的であり、作った作物を販売することでお金を稼いで生活でき、販売活動により社会と接点を持てるという意味で人生が豊かになると考えています。しかし、ここ最近の異常気象でうまく作物が育たず、苦労されている農家もあるようです。梅雨の長雨、夏の猛暑、冬の暖冬など、気象変動に合わせていかなければなりません。

 ある農業法人の依頼で講演に行った時のことです。講演の最後に質疑応答の時間があり、その時、ある果樹農家の方がこう質問しました。

「いいもの、おいしい果物を作ってもなかなか売れないんです」「農薬を極力減らして、その分手間をかけて作ったのに安くないと売れない」「農薬たっぷりかけて手間を減らして安くした方がいいでしょうか!?」

 農薬たっぷりという表現に何か生産者側の怒りや皮肉を感じましたが、当社は営業系のコンサルタントであり、当日の講演内容に無関係ではありませんでしたので即座にこう答えました。

「農薬を減らしておいしい果物を作る技術をお持ちなら、それを大切にした方がいいですよ」「考えるべきはその高品質な果物をどのように販売するかということです」

 肝心な、それをどう販売するかまでは詳しく申し上げられませんでしたが、その果樹農家の方の想いと一致したようで、納得した様子で質問を終えました。もしここで「農薬たっぷり振りかけて、手間を省いて売れる価格で売りましょう」などと答えれば、この農家のプライドを傷つけていたことでしょう。

 しかし、そうは言っても簡単に売れるものでもありません。手間暇かけて作った安心・安全な作物を相応な価格で売ることは至難の業です。農家の方は農作物を作ることにかけてはプライドを持ったプロばかりですが、それをどのように付加価値を高めて販売すればいいかは、なかなか難しいことでしょう。農協という巨大組織に寄り添っていれば何とかなった時代ではないのでしょう。

 これは何も農業に限ったことではありません。工業製品もそうです。技術力の高い会社が市場調査をして作った製品が思ったより売れない。「こんないいものを作ったのに何で売れないんだ」と社長は嘆きます。

 しかし、売れない理由はちゃんとあって、それは「作った製品を商品にできていない」からです。製品は作り手の理屈であり、商品は買い手の視点です。ここが微妙にずれているのです。「そんな馬鹿な!」「ウチは市場調査して作っている」という方がいますが、本当にそうであれば製品の魅力をアピールできていないことになります。

 この果樹農家の方も同じことが言えます。自分が作った果物は消費者ニーズに合っているかということです。例えばぶどうでいえば、最近ではシャインマスカットの人気はすさまじいものがります。一昔前のデラウエアなどはおいしいのですが、小粒で食味が今一つなため、一定の需要があるものの人気はいま一つです。シャインマスカットの他にも、皮ごと食べられて食味の素晴らしいぶどうが次々と登場しています。昔ながらのぶどうは人気がありません。

 こういったことを考えているか、自分の技術が評価されていないのは市場のせいだと理由にしていないでしょうか。また、減農薬をうまく消費者に伝えられているでしょうか。安心・安全な農作物は根強い人気と需要があります。そこにアプローチできているかということです。

 当然、そんなことは百も承知、そんなことはもうすでに取り組んでいるというかもしれません。農作物の場合1年に1回きりですし、果樹の場合、結実するまでに何年もかかるため、工業製品のように次から次へというわけにはいきません。農家の苦労も大変なことでしょう。しかしあえて言えば、他者も同じわけですので早く手を打った方が勝ちです。

 この農家の方の解として「ショールーム化」を提案したいと思います。簡単ではありませんが、農業であっても取り組む価値はあります。「農業のショールーム化」を図ることで打開できるはずです。この「ショールーム化」はどの業界・業種にも適応でき、成果は間違いなく表れるということが最大の特徴です。

 

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