第76話 人生の成功者
皆さんは、人生の成功者とはどんな人かと問われたら、どう答えますか? 出世レースを勝ち抜いた大会社の社長、一代で株式上場させた起業家、政界に大きな影響力を持つ大物政治家、スポーツで大記録を打ち立てたアスリート、テレビや映画で大人気の芸能人、・・・。こういった人たちは大きな報酬を得て金銭的・物質的な豊かさを享受し、庶民とはかけ離れた豊かな生活を送っていることでしょう。いわゆる富裕層と言われる人たちです。
有り余る才能を活かし技術を磨き、他人を押しのけ、人並み外れた努力の結果成功を収めたと言っていいでしょう。才能、努力、運、・・・これらがうまくマッチし、そのチャンスを逃さなかったからこそ成功者と呼ばれるのかもしれません。これらは、成功=有名、金銭的・物質的豊かさ、という等式が成り立っているように見えます。しかし、この等式は本当に成り立つでしょうか。ごく一部の人たちの物差しにすぎないと言えないでしょうか。スポットライトが強烈に当たっている部分をのみ見ているのではないでしょうか。
「先生、うちの息子は頭はいいけど商売が下手なんですよ」
「くそまじめで正直なんで、どうもお金に縁はなさそうです」
そうおっしゃる経営者の方がいました。自分の息子を称して、商売下手。商売をやっているんだからもっと金儲けに貪欲でもいいはずなのに、それができないというのです。この息子は優秀な工業系の学校を卒業しましたが、家業の小さな工務店を継いでいます。
無口で愛想はないが、仕事ぶりは一生懸命。普通なら嫌がる仕事でも、お客さんから頼まれれば嫌とは言わない。工事費はかなり格安で、同業から見れば「大丈夫なの?」と言われるくらいの低価格。派手さはなく地味を地で行くような人柄。
そんな後継ぎから当社に相談がありました。
「先生、ショールームを作ってお客さんに完成をイメージしてもらいやすくしたいんだけど、どんなショールームがいいかな」
「ん~、そうですねえ、まあ・・・、ショールームは作るのをやめましょう」
「えー、何でですか!先生はショールームを作るアドバイスをしてるんでしょう?それなのになんでダメなんですか⁈」
これには普段おとなしいこの後継ぎがむきになりました。しかし理由を丁寧に説明し、今のやり方のほうが世の中に貢献できることを話しました。ショールームの形は様々で、持たないという形もあるということを分かってもらいました。仮に作ってもこの後継ぎではショールームを回せないことが分かっていたからです。
加えて、当社のコンサルティングを勘違いしていることもありました。自社に最適なショールームをどう形作るかということは大切ですが、それを回すしくみや組織がなければ、せっかく作ったショールームも宝の持ち腐れ。そこのところを理解していませんでした。
当社も商売ですから、ショールーム営業のコンサルティングを販売するチャンスだったのですが、お断りしました。もったいないと思うかもしれませんが、失敗するのは分かり切っています。ショールームを作っても、2年もすれば物置になることが分かっていながら請け負うほど、当社はお人よしではありません。
結局、今まで通りの営業方法で、地道に地域の顧客のために良心的に商売をされています。会社を大きくはできないでしょうが、それだけが商売の目的ではありません。
もちろん、その能力が高い経営者の方は、会社を大きくし社会の公器としての役割を果たせばいいと思います。そのようにできる経営者の方はチャレンジしてもらいたいです。しかし、その能力が高くない経営者の方は違った意味で社会に貢献する方法もあります。
この工務店の跡継ぎは商売では大成功とはいきませんが、地域に貢献し住民から慕われている、人生の成功者だと言えます。この後継ぎは、従業員とともに元気に生き生きと働いています。
日本の産業を支えているのは大企業だけではありません。世の中に存在する企業の大多数は中小零細企業です。また、経営者を含めて、そこで働く人々が社会を支えているのです。中小零細企業が元気になれば、日本の社会も元気になります。当社はそのような企業の経営者と一緒に走り、全力で応援する企業です。