第53話 ショールームアドバイザーを活かせていますか?
「わずか1時間で決められるわけないだろ。何考えてんだ、お宅の会社は!」「よそのショールームは時間制限なんてなかったぞ!」「密を避けるためというなら受付が密になっているじゃないか!」
ある建材メーカーのショールームで、来館客(男性)が受付のショールームアドバイザーの女性に執拗にクレームをつけていました。このメーカーのショールームはコロナ対策として、密を避けるために見学を予約制とし、分散来館を実施していました。そして見学時間も原則として1時間という制限を設けていました。当然、アルコール消毒や体温測定も実施し、念のために連絡先も記入してもらうという徹底ぶり。それがこの会社の方針であり、考え方と言ってもいいでしょう。じっくり商品を選んでもらい購入してもらいたいのはやまやまでしょうが、それよりも来館者と従業員の安全を優先した結果だと言えます。
ところがこの来館客は、見学時間1時間というのが気に入らなかったようで、ショールームアドバイザーに対し会社の経営姿勢にまでクレームをつける始末。しかも延々と数十分、グダグダと同じ話を堂々巡りのように話しているのが聞こえてきました(結構大きな声だったので聞きたくなくても聞こえてきてしまった)。その間そのショールームアドバイザーはうなづきながら、じっと耳を傾け我慢している様子。気の毒になってしまいました。
耐久消費財は比較的高額品であり、接客の如何により契約率が変わってきます。商品自体はそれぞれメーカーの特徴があり、機能性や価格等、消費者のニーズが影響することは間違いありません。しかし、消費者の購買行動に影響を及ぼすのは、実は、信頼できるビジネスパートナーであったりショールームアドバイザーであるということです。
今の世の中、大企業メーカーが粗悪品を売るということはありえません。そんな粗悪品を売ったら目の肥えた消費者が許しません。そんなことをすれば市場から即退場です。したがって、消費者ニーズにマッチした製品を作るということは当たり前で、そのうえでどのように接客するかという時代に入ってきています。
そのような状況の中で、メーカーはこういったクレーマーに非常に敏感になっています。商品が売れるか売れないかよりも、自社のブランドイメージが毀損されるのを恐れています。怒らせて嫌がらせを受けるよりも、何とか穏便に解決したいと思っています。それに付け込んだ消費者がいることは間違いありません。したがって、こういったクレームのケースは、何とかなだめすかして、それでもだめなら特別対応するといったことが起きます。まあそれでたいがいは、納得というか気が収まるので一件落着となるのですが、もっとも悪質なのは購買後にクレームをつけて、値引き、金品を要求してくる場合です。
この場合メーカーだけでなく、流通にも負担がかかります。メーカーはもとより、卸売りや小売りにもクレームをつけてくるからです。小規模な卸売りや小売りは、この手のクレーマーに対処するすべを持っていません。水際作戦ではないですが、こういったクレーマーには、なだめすかしながらも断固とした態度で臨むべきです。もちろん「正しいクレーム」についてはきちんと対処すべきです。それが今後の購買につながるからです。
冒頭の建材メーカーのショールームアドバイザーは、先ほどのクレーマーが直接の顧客ではないにしろ、後に引かないように、流通業者に迷惑にならないように何とか収まってほしいと願いながら接客しています。本来なら商品の特徴や使い勝手を説明し、顧客に提案するということが仕事のはずなのに、わけのわからないクレームを延々と聞かなければならないのはつらいでしょう。こんな時に男性の管理職クラスの人がいたならなどと思うのですが、固定費の削減の影響かショールームのスタッフは女性ばかり。
訓練を受けたショールームアドバイザーは優秀な方ばかりです。商品や接客の研修を受け、来館者に適切にアドバイスできる能力を持っています。そのような優秀なアドバイザーが、わけのわからないクレームに巻き込まれてしまっては他の来館者にも迷惑です。ショールームアドバイザーの能力を活かすも殺すも経営者次第。活かすしくみを持っているかいないか、重要なポイントです。
自社の製品を、魅力ある商品に変換できるショールームアドバイザーの重要性は、ますます高まってきています。人材の都合で兼任という会社もあるでしょう。しかしそうだからと言って中途半端な仕事では、作った製品を売れる商品に変換できません。作り手の理屈で作った製品を、消費者の視点で商品化するのはショールームであり、ショールームアドバイザーです。
立派なショールームを造ることよりも、ショールームアドバイザーの教育とその人たちを活かすしくみが必要です。それによってショールーム営業の基盤が出来上がります。今後ショールームを造ろうと計画中の方、すでにショールームを持っている方、一度点検してみてください。案外、展示品や展示方法に気を取られて見過ごしているかもしれません。
あなたの会社はショールームアドバイザーを十分活かせていますか?