第45話 コンサルティングで最も難しいこととは

 皆さん、中小企業診断士という国家資格をご存じですか?経営コンサルタントになるための資格と言われていて、資格を得るには、1次試験、2次試験、面接の合格と、診断実習が必要になります。難度が高く、独学ではなかなか合格できないため、多くの方が働きながら専門学校に通って合格を目指すような資格です。そうは言っても、司法試験や公認会計士試験のような超難関試験とは違い、普通の人できちんと勉強すれば手にできる資格でもあります。

 この資格の2次試験は論述式で、例題に対し、設問ごとに20字~200字以内で答えよという問題が出されます。その答えを記述するとき、1つのコツがあると言われています。それは、「タコ社長でも分かるくらい易しい言葉で」というものです。(タコ社長というのは、映画「寅さん」に出てくる、印刷工場の社長のことだと思われます)1次試験で学んだ専門用語や理論を得意になって並び立てると、よくわからない、伝わらない論述になってしまうので、採点者に伝わりやすい平易な言葉で論述したほうが良い点が取れるということです。

 中小企業診断士を目指す方の多くは、優秀な大学を優秀な成績で卒業し大企業に就職したような、いわばエリートの人たちです。高校や大学で高い教育を受け、会社で高度な実務を習得してきた人たちですので、どうしても物事を難しく考えがちです。難しく考えて、難しい言葉を駆使して議論したりコミュニケーションしたりします。

 ところが、このような難しい言葉や専門用語は、実際の社会では普段使われることはなく、たとえビジネスの世界であっても「タコ社長」に通用するわけではありません。また、この2次試験は論理性も必要になります。論理性がなければクライアントの理解を得られないし、コンサルタントの経験や勘だけでは経営判断が丁半の博打になってしまうからです。

 当社のクライアントである、あるNPO法人の理事会にオブザーバーで出席したときのことです。重要な議案の採決に関し、非合理的な判断で採決されようとしていました。それに対し理事の1人が、合理的な理由で採決を見送るよう提案したのです。ところが、中小企業診断士の資格を持つ(と思われる)理事が、経営の専門用語を持ち出し並べて、しかも感情的に非合理的な意見を連発したため、会議は紛糾してしまいました。その診断士と思われる方は、得意満面、どうだと言わんばかりのドヤ顔をされていましたが、傍らで見聞きしていた側とすれば、「違うんだけどなあ~」と思う以外できませんでした。(あくまでもオブザーバーの立場で出席していたため)

 当社は、中小企業経営者ほど経営を理解している人はいない、と考えています。なぜなら自分の人生を投げ出して会社や社員のために働いているからです。銀行や取引先に個人保証をしている方も多いでしょう。経営者にとって、会社は自身の分身なのです。

 しかしそうは言っても、経営の専門的な知識を持っている方ばかりではありません。独自の経験と勘でこれまでの荒波を乗り切ってきたという方もいらっしゃるでしょう。そういう方々に対し、経営の専門用語を並べて煙に巻いて、ろくなコンサルティングもできないコンサルタントがいます。(中小企業診断士がそうだと言っているわけではありません。念のため)

 コンサルティングはクライアントに伝わってこそ価値があります。専門用語や難解な言葉を並べても意味がありません。それどころか返って有害です。難しいことを難しく話すのは簡単です。しかし、難しいことを易しく分かりやすく話すのは難しいです。実はこれが、コンサルティングで最も難しいことです。

 当社は、難しい内容であっても、クライアントに易しく分りやすい言葉でコンサルティングをすることを目指しています。