第41話 チャレンジできる幸せ
6月の梅雨空に晴れ間がのぞいた、あの蒸し暑い日に、40年来の友人は天国へ旅立ちました。高校卒業後、料理人になると言って調理師専門学校へ進学し、その後10年余りの修業を経て念願だった自分のフランス料理の店を持ちました。客の評判はよく、しゃれた店はいつもにぎわっていて、学校の同窓会をその友人の店で開くことしばしば。当時の先生も呼んで、みんなで懐かしい時間を過ごした記憶がよみがえります。最近体調がよくないと聞いていましたが、まさかこんなことになるとは思わず、一報を聞いたときには絶句してしまいました。
この友人、高校の同級生の多くが大学に進学する中、料理人になることを決意しチャレンジする道を選びました。特に自分の店を持ってからはチャレンジの連続だったでしょう。小さいながらも店を切り盛りし、経営者として自立していくためには苦労もひとしおだったに違いありません。しかし、会えばいつもニコニコ楽しそうに話し、そんな苦労を感じさせないヤツでした。今の時代、60歳手前でなくなるというのは早すぎますが、友人はギュッと凝縮された人生を歩んできたのだと思います。もっともっとやりたいことはあったでしょうが、傍から見ればバイタリティーのあるいい人生だったと思えるのです。
企業のオーナー経営者の皆さんはどんな人生を歩んでいますか。親から受け継いだ人、自分で会社を立ち上げた人、違いはあれど立場は経営者です。自分で悩み、考え、決断する毎日がそれこそチャレンジです。他人は、アドバイスはくれても、決断し責任を取るのは自分です。役割分担で従業員に仕事を任せ権限を与えたとしても、結果は最終的に自分が受け持つのです。それゆえ毎日がチャレンジで、ハラハラドキドキの連続と言ってもいいでしょう。
仕事柄、中小企業の経営者の方と会う機会が多くあります。多くの方は自社の経営を第一に考え、自分のことは後回し。常に何かビジネスの種はないかとアンテナを張っているのですが、中には「大丈夫ですか?そんなに遊んでいて」と言いたくなるような方もいます。
経営者として成功するかどうかは、その人が、仕事が好きかどうかという視点で見ることで分かります。成功する経営者は基本的に遊びよりも仕事のほうが好きです。なぜ仕事が好きなのか?前にも書きましたが、経営は判断すること、決断することの連続です。その毎日の、判断したり決断したりすることが、チャレンジする勇気と覚悟を持った経営者には新しい刺激となり楽しいのです。だからほかの何より仕事が好きだし面白いのです。そう感じない人や、仕事より遊びが好きな人は経営者には向いていないでしょう。
コロナが収まらない中、既存のビジネスに代わり新しいビジネスが生まれてくることは必至です。悩まず、考えず、決断しないなら、平成の化石となって取り残されてしまいます。景気が良かった時代は、下請けやOEM受託生産でも生きてこられたでしょう。しかし、景気が悪化してくると営業しないで生き延びていくことは難しくなります。なにも下請けやOEM受託生産が悪いと言っているわけではありません。それできちんと売り上げも利益も出しているのですから。しかしそんな中でも、次の一手を打つ決断をすべきではないですかと言っているのです。いい製品を作っても売れない時代です。なぜ売れないのかよく考え、悩み、そして決断が必要な時代が来ています。
前出の友人は若いころに、料理人・オーナー経営者になるという決断をし、長い間チャレンジしてきました。苦労や悩みは多かったでしょうが、仕事が好きなヤツでしたので、人生ちょっと短かったですが充実した人生だったと思います。一方、今生きている人間にとっては、まだまだチャレンジするチャンスが残されています。それはとても幸せなことだと感じています。一度きりしかない人生、この後どう生きるかは自分次第。悔いのない人生だったと、最期のその時に言えるようチャレンジしていきたいものです。